◆実質基準
~“実質基準”における個別貸倒引当金~
この基準は更生計画の申立てや認可の決定等の事象は発生してないものの、債権者の債務超過の状態が相当期間(おおむね1年以上)続いていて、好転の見通しがないこと、災害、経済事情の急変等による多大な損失が生じたこと、その債権のうち一部の額について、担保権の実行等による取立ての見込みがない場合に認められます。
簡単に言うと、1年以上債務超過になっていて売掛金や貸付金などの担保権の分を差し引いた一部の額に弁済の見通しが立たない場合に引当金の繰り入れを認めるというものです。ただし、その担保分の処分に日時を要すると認められることとなっています。
ここで、“一部の額”を強調しているのは、全額だった場合は引当金ではなくて、貸倒損失になっちゃいますので。
ちなみ、貸倒損失は対象が売上債権に限定しているなど、要件が違いますので注意が必要です。
では、繰入限度額を見ていきましょう。
~税法上の繰入限度額~
繰入限度額=(個別評価債権※1-取立等見込額※2)
※1 個別評価債権 売掛金・受取手形・未収金や貸付金などこれらに準ずるもの
※2 取立等見込額 質権、抵当権、所有権留保、信用保険等により担保されている金額
ちなみに、実質基準を採用する場合はかなり敷居が高いと思います。
実務上は頻繁に採用することはあまり多くはないと思われます。
なぜかというと、何か貸倒計上させられるような法的な事実が発生しているわけではないので、貸倒引当金を繰り入れるだけの状況を証明できなければ、税務上否認されかねません。
それを証明する書類をそろえなければなりません。
この場合、取立見込額を差し引いて残った部分の全額を繰り入れるため、取立て見込額を正しく算定しなければ正確ではありませんから。
取立等見込額はざっくり言うと、質権、抵当権、所有権留保等がありますが
“そもそも、担保権の実行は可能なのか…?”ってことになってきます。
こんなパターンがあります。
・保証人が行方不明になっている。
・保証人が生活保護を受けている、またはそれと同程度の収入しかない。
・保証人事態が破産手続きの申立てを行っている。
・質権等にその時価以上に先順位の担保権が設定されていて、回収見込額に足りてない。
こういった場合は、その差額分を考慮して引当金を繰り入れることができますが、これらの状況に正当性があるといった証明をする書類が必要になってきます。
事務手続きがかなり煩雑なため、貸倒懸念債権の額によっては費用対効果が望めないこともあると思います。
形式基準や長期棚上げ基準を採用することのできるタイミングで繰り入れる方がおすすめかもしれません。